01/06/2026
令和8年6月1日となりました。お国が作った制度に文句を言いたくはないのですが、最近の国の政策には、複雑怪奇なことが時にあり、首をかしげざるを得ません。
さて、なにをお話ししたいかというと、令和8年度に改定された「ベースアップ評価料」についてです。
ご存じのとおり、今は圧倒的に物価高騰が進み(昔100円くらいだった大根が、今200~300円します)、皆さんもため息が出るばかりです。
医療機関は、医療を行いその対価として「診療報酬」という仕組みで、お金を頂いています。初診料、再診料、手技料などを評価されて、これはいくらという「報酬」を頂いています。
この診療報酬は、中央社会保険医療協議会(中医協)が議論して決めています。そこで、高騰する物価対策として、令和6年から摩訶不思議な「ベースアップ評価料」がはじまりました。
(以下、Google Gemini)
令和6年(2024年)の診療報酬改定で新設され、現在大きな議論を呼んでいる「ベースアップ評価料(ベア評価料)」。
この制度は、一言で言えば「国が医療機関に対し、患者から上乗せで医療費(初診料や入院料の加算など)を徴収することを認め、その増収分を『1円も残さず丸ごとスタッフの給与(ベア)に回しなさい』と命令する仕組み」です。
一見すると素晴らしい福祉政策のように思えますが、現場の医療機関はかつてない激震と困惑に包まれています。
なぜこれほど現場が混乱しているのか、その舞台裏と2026年(令和8年)の最新動向を詳しくひも解きます。
1. 制度誕生の背景と歴史:なぜ国が給与に口を出すのか?
最大の背景は、「他業界との圧倒的な賃上げ格差」と「深刻な医療人材の流出」です。
近年の日本経済は、春闘などを通じて民間企業で過去最高水準の賃上げが続いています。しかし、医療機関の収入(価格)は国が決める「診療報酬」で固定されているため、物価が上がっても、他業界のように商品の値上げをして賃上げ原資を作る自由がありません。
結果として、看護師や医療技術職、事務職の給与が他業界に比べて見劣りするようになり、一般企業への転職や離職が相次ぐ「医療崩壊の危機」に直面しました。
過去の「処遇改善」との決定的な違い
これまでも国は、看護職員などを対象に「処遇改善手当」として一時金や補助金を配った歴史があります。しかし、これらは「一時的なボーナス」になりがちで、基本給そのものを底上げする「ベースアップ(ベア)」には繋がりにくい性質がありました。
そこで国は、「基本給(または毎月固定の手当)を恒久的に引き上げるための専用のサイフ」として、診療報酬の中に「ベースアップ評価料」を新設したのです。
2. 令和8年改訂への変遷:段階的引き上げと「アメとムチ」
制度は2026年(令和8年)6月の診療報酬改定で、早くも大きな転換期を迎えています。今回の改定では、より強力な「継続へのアメ」と「未導入へのムチ」が組み込まれました。
令和8年度・9年度の主な変更点
項目 令和6年度(導入初期) 令和8年度・9年度(現在・今後の変遷)
国の賃上げ目標 2024年度 +2.5%、2025年度 +2.0% 2026年度 +3.2%、2027年度 +3.2% へ引き上げ
評価(点数)の設計 一律の点数設定 段階的な引き上げ(令和8年・9年でステップアップ)
継続への優遇(アメ) なし 過去から継続してベアを行っている施設はさらに高い点数を算定可能
未導入への罰則(ムチ) 算定しなければ0点 ベア評価料を申請しない医療機関は**「入院料そのものを減算(ペナルティ)」**
国は「他業界に負けない賃上げ(4年間で計約12%)」を達成するため、令和8年度からはさらに点数を引き上げ、令和9年度には最大区分をさらに広げる2段階のロードマップを敷いています。
特に強力なのが「ムチ」の部分です。実は、令和6年度の入院料にはあらかじめベア原資が含まれていたとされ、「令和8年3月までにベア評価料を届け出ていなかった医療機関は、入院基本料を強制的に引き下げる(減算)」という極めて厳しいルールが導入されました。これにより、すべての病院・診療所は否応なしに対応を迫られています。
3. 医療機関側の対応:経営者と事務方を襲う「超複雑なパズル」
医療機関がこの「ベア評価料」を算定し、スタッフに給与を支払うためには、毎年のように以下の過酷なステップを踏む必要があります。
1.対象職員の特定と給与総額の計算:
非常に緻密な仕分けが必要。
看護師、理学療法士、事務職など、対象となる全職員の「現在の給与総額」を正確に算出します(※役員や経営者は対象外)。
2.ベア評価料の「見込み収入」を試算:
国のシミュレーターを使用。
過去の患者数や初診・再診のデータから、この評価料を導入した際、1年間で患者からいくら集まるか(見込み収入)を計算します。
3.賃上げ計画書の作成・提出:
1円のズレも許されないパズル。
「見込み収入」と「スタッフへの分配額」がぴったり一致する(または持ち出しになる)ように、一人ひとりの基本給を何円上げるかの計画書を作り、厚生局に届け出ます。
4.就業規則・給与規定の改定と支給:
法的な手続き。
基本給を書き換えるため、労務手続きを行い、実際に毎月の給与を引き上げます。
5.賃金改善実績報告書の提出:
事後の厳格な監査。
年度末に、実際に患者から入ってきた金額と、実際にベアで支払った金額を1円単位で答え合わせし、国に報告します。
4. 医療現場の「困惑と悲鳴」:なぜ不評なのか?
スタッフの給料が上がる素晴らしい制度のはずが、なぜ現場から悲鳴が上がっているのでしょうか。理由は主に3つあります。
① 事務負担が限界突破している(特に中小クリニック)
この制度は、「患者が何人来るか」によって医療機関に入ってくる原資(収入)が毎月変動します。 それなのに、「スタッフに支払う基本給(ベア)」は毎月固定で上げなければなりません。収入が足りなければ経営者の「持ち出し(赤字)」になり、収入が多すぎれば「計画以上に無理やり配るか、国に返還」しなければなりません。この計算パズルが複雑怪奇すぎて、事務スタッフの少ない個人クリニックでは「院長が夜な夜な電卓を叩いても終わらない」という事態に陥っています。
② 患者さんへの説明が苦しい
窓口で「今月から数十円〜数百円、お会計が高くなります」と伝えると、患者さん(特に高齢者の方々)から「何も検査や治療は変わっていないのに、なぜ高くなるんだ?」と不満をぶつけられます。「国の方針で、スタッフの給与に充てるためです」と正直に説明せざるを得ず、窓口がトラブルの矢面に立たされています。
③ 一度上げた基本給は「下げられない」
日本の労働法(不利益変更の禁止)において、一度引き上げた「基本給」を、後から経営が悪化したという理由で下げることは極めて困難です。もし将来、国がこの「ベア評価料」という制度を廃止したり点数を下げたりした場合、医療機関は「収入のハシゴを外された状態で、高くなった人件費だけを永久に払い続けなければならない」という巨大な経営リスクを背負うことになります。
💡 医療 peer's eye(まとめにかえて)
国の「医療従事者を守りたい」という意図は本物ですが、そのやり方があまりにも「医療機関の事務能力や経営リスクを無視した性善説(かつ厳格な監視付き)」であるため、現場はメリットよりも恐怖と疲弊を強く感じています。令和8年改訂で全医療機関(すでに導入済みの施設含む)が**「5月中に再届出」**をしなければ、6月からの算定はおろか、入院料の減算ペナルティを受けるという「強制イベント」へと進化しました。今まさに、全国の医療機関の事務長や院長が頭を抱えながら書類を作成しているのが、この制度のリアルな実態です。
この複雑な計算の仕組みや、厚生労働省が公開している公式の解説について、視覚的にさらに理解を深めたい場合は、以下の解説動画が非常に参考になります。
厚生労働省公式:令和8年度診療報酬改定の賃上げ・物価対応の概要 https://www.youtube.com/watch?v=v0jaVMWwjcc
国の担当者が、令和8年度以降のベースアップ評価料の段階的な点数設計や、未届け時の入院料減算ペナルティといった重要な変更点について、公式のスライドを用いて詳細に解説しています。
(以上、引用終了)
日本の多くのクリニックで、医師自身の高齢化、少子高齢化による人材不足、度重なるIT/DXの強要(補助金が半分でても、その半分は医療機関の余分な負担で、それを導入したからといって収入が増えるわけではないIT/DX)で、
もうクリニックなんてやってられるか!と憤慨している先生が多いと思います。その結果身近な医療機関がなくっていくのが、回り回って国民へ(この制度を作った人達にも)「つけ」がいくことを想像できないんでしょうね。
令和8年度診療報酬改定の概要を説明した動画です。関係法令・通知・資料等はこちらをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html