のだ眼科・血管内科クリニック

のだ眼科・血管内科クリニック のだ眼科・血管内科クリニック院長の野田 浩です。弘前市北部で眼科と血管内科を開設しています。眼科は眼科専門医である副院長 野田 康子が担当し、私は血管内科を担当しています。今後ともよろしくお願いします。 眼と足と血管の健康のためのクリニックです。

06/03/2026

漢方ってすごいかも!と思った外来での一場面

今日の外来で、70代の患者さんから印象的なお話をうかがいました。
もともと風邪をひきやすいことが気になっておられ、体力低下や易感染性(感染しやすさ)を意識して、以前から補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を続けていただいていた方です。

今回の受診で、その患者さんがこう話してくださいました。
「この前、孫が帰省してきてインフルエンザになったんです。あとから両親もかかってしまって。でも私は大丈夫だった。いっしょに布団で寝たこともあったのに、うつらなかった。漢方ってすごいね」

もちろん、ひとつの出来事だけで「補中益気湯のおかげで防げた」と断定することはできません。
感染の有無には、曝露の程度、体調、その時の免疫状態、ワクチン接種歴など、さまざまな要因が関わります。それでも、日々の診療の中でこうした実感のこもった言葉をいただくと、漢方の持つ可能性を改めて考えさせられます。

補中益気湯は“体を立て直す”漢方です

補中益気湯は、食欲低下、倦怠感、疲れやすさ、病後の体力低下などに用いられる代表的な漢方薬です。
西洋医学の薬のように、ひとつの症状だけをピンポイントで抑えるというより、全身状態を底上げし、回復力を支えるような使い方がしっくりくる処方です。

私自身、外来では「すぐに効く特効薬」というより、「風邪をひきやすい」「治ったあとも調子が戻りにくい」といった方に、体質や経過をみながら処方を考えることがあります。
高齢の患者さんでは、こうした“なんとなく弱っている”部分を丁寧に支えることが、結果として感染症への抵抗力に関わる可能性があります。

実は、予防効果を示唆する報告もあります

補中益気湯については、病院職員を対象に、内服群179人と非内服群179人を比較した新型インフルエンザ予防プロジェクトが会議報告として公表されています。タイトルからも分かるように、臨床現場で感染予防を意識して検討されたものです。加えて、基礎研究では、補中益気湯がインフルエンザウイルスの感染過程や生体側の防御反応に影響しうること、マウス実験や細胞実験で予防的作用が示唆されています。

一方で、こうした報告は「一定の可能性」を示すものであって、誰にでも確実な予防効果があるとまでは言えません。現時点では、ワクチン、手洗い、十分な休養、栄養管理といった基本的な感染対策の代わりになるものではなく、それらを補う選択肢のひとつとして考えるのが妥当です。

日常診療の中で、こういう話は大事にしたい

外来をしていると、検査値や画像所見だけでは見えてこない“患者さん自身の実感”に教えられることがあります。
今回の「漢方ってすごいね」というひと言も、そのひとつでした。

派手ではありませんが、体調を整え、感染しにくい状態を保つことは、特に高齢の方の診療ではとても大切です。
漢方は、そのお手伝いができることがあります。西洋医学と対立するものではなく、日々の診療を少し厚くしてくれる選択肢として、これからも丁寧に活かしていきたいと思います。

#補中益気湯 #漢方 #インフルエンザ予防 #総合診療 #地域医療

https://medical-tribune.co.jp/rensai/articles/?blogid=11&entryid=570958前回は、高齢者で降圧を頑張りすぎると「拡張期血圧(DBP)」が下がりすぎて、脳血流が落ち、めまい・...
23/02/2026

https://medical-tribune.co.jp/rensai/articles/?blogid=11&entryid=570958

前回は、高齢者で降圧を頑張りすぎると「拡張期血圧(DBP)」が下がりすぎて、脳血流が落ち、めまい・転倒など生活上のリスクにつながる、という話をしました。

最近もう一つ、気になる報告を目にしました。
「左室肥大(LVH)がある高血圧患者さんでは、厳格な降圧がかえって予後(心血管イベントや死亡率)を悪化させる可能性がある」というものです。要するに、“心臓そのものが虚血(酸素不足)に陥る危険”がある、という視点です。
なぜ、心不全予防のために血圧を下げる治療が、逆に心臓を苦しめることがあるのでしょうか。
ヒントは、生理学の大原則「冠血流(心筋の血流)は主に拡張期に流れる」です。

高血圧の期間が長いと、心臓は高い後負荷に耐えるために厚くなります(求心性肥大=LVH)。
ところが肥大した心筋は、酸素の需要が増える一方で、拡張しにくくなり、左室の拡張末期圧(LVEDP)が高く保たれやすい状態になります。
ここで重要なのが、心筋へ血液を押し込む力=「冠灌流圧」です。
これは概念的に、
【冠灌流圧 ≒ 拡張期血圧(DBP)- 左室拡張末期圧(LVEDP)】
という“引き算”で決まります。
つまり、LVHでLVEDPが高い人ほど、冠灌流圧はもともと不利です。

その状態で、収縮期血圧(SBP)を目標(120台など)へ強力に下げようとすると、高齢者のように動脈が硬く脈圧が開いているケースでは、DBPまで一緒に引きずられて50mmHg台などまで落ちることがあります。
DBPが下がり、さらにLVEDPが高いままだと、この引き算の結果が小さくなり、冠灌流圧が限界を割り込みやすくなります。
するとまず血流が届きにくい「内膜下心筋」から慢性的な虚血に陥り、不整脈や心不全悪化の土台になり得る。これが「厳格降圧が予後を悪くし得る」メカニズムとして、私はしっくりきました。

もちろん、SBPを下げて後負荷を軽くすることは、長期的には心臓を守るために大切です。
ただし、将来のために焦るあまり、いまのDBPを下げすぎて心筋を“兵糧攻め(虚血)”にしてしまっては本末転倒です。
日々の診療で「SBPが目標に入った、よし」と安心する前に、もう一歩だけ。
「DBPが下がりすぎていないか(目安として60未満など)」「胸部症状、息切れ、ふらつき、徐脈、虚血所見など“サイン”は出ていないか」をセットで考える。
血圧計の数字だけでなく、目の前の患者さんの“臓器血流”を診る感覚を、地域のチームでも共有していきたいと思います。

#高血圧
#降圧治療
#拡張期血圧
#左室肥大
#冠血流
#心不全予防
#臓器血流

〔編集部から〕本連載は、主要医学ジャーナルに目を通すことを毎朝の日課としている医学レポーターが、SNS上での反響も踏まえ、毎週特に目を引いた論文5本をピックアップ。うち1本にフォーカスします。今回は2月2~8日....

22/02/2026

血圧の「数字」の向こう側にあるもの 〜高齢者診療で私たちが忘れてはいけない視点〜

先日、「かかりつけ医の高血圧診療」をテーマにした講演会の案内を目にしました。高血圧診療の現在地、新ガイドラインと非薬物療法、脳卒中予防、厳格な降圧管理、心不全予防――いずれも、いまの地域医療に直結する重要なテーマだと感じます。

高血圧診療は確実に進歩しています。2025年の日本高血圧学会ガイドライン(JSH2025)では、降圧目標が年齢によらず原則として「診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満」というより厳格な方向が示され、素晴らしい新薬も次々と登場しています。これは医療の確実な前進です。

一方で、その案内を見たとき、私の中に小さな引っかかりも生まれました。「血圧をより厳格に下げる」ことが強調される流れの中で、私たちが日常診療で守るべき“もう一つの視点”が、置き去りになっていないだろうか、という点です。

ガイドラインでは同時に、薬剤の副作用や有害事象に注意し、個別性を踏まえて調整することも強く推奨されています。つまり、「下げる」ことと同じ重さで、「安全に下げる」「その人に合わせる」ことが求められているという理解が大切だと思います。

過去からの学び
ここで、過去の医療からの学びを一つ挙げます。血管治療の世界ではかつて、「狭いところが見えたら、とにかく拡げるのが正義」という時代がありました。けれど、その後の経験で私たちは学びました。形や数字が整っても、患者さんの実際の機能や生活が守られなければ、医療の本来の目的(健康寿命やQOLの改善)には届かない、ということを。

高齢者の高血圧診療でも、似た構図が起こり得ます。血圧計の数字を見た瞬間に、反射的に“正解の値”へ寄せたくなる。しかし、ご高齢の方の体は、単純な足し算・引き算では説明しきれない局面が多々あります。

「下の血圧」が下がりすぎる怖さ
ここで特に意識したいのが「拡張期血圧(下の血圧)」です。高齢の患者さんでは動脈硬化が進み、血管の弾力が低下して硬くなっています。クッション性がないため、上と下の血圧の差(脈圧)が大きく開いてしまうのが特徴です。

この状態で、上の血圧を125mmHgまで厳格に下げようとすると、どうなるか。物理的な結果として、下の血圧が40mmHgや50mmHgといった異常な低値まで下がってしまうことがよくあります。

心臓や脳に血液がしっかり流れ込むのは、実はこの「下の血圧」のタイミングです。ここが下がりすぎると臓器に十分な血液がいかなくなり、現場では「めまい、ふらつき、立ちくらみ」として症状に表れます。

数字を治して、生活を壊さないために
現場で最も問題になるのは、まさにこの症状です。めまいやふらつきは、患者さんの「生活の安全」を直撃します。最も怖いのは転倒です。転倒からの大腿骨近位部骨折は、活動性の低下、フレイルの進行、さらには認知機能の低下へと連鎖し得ます。将来の心臓発作を防ぐために強いお薬を使い、その結果として今日転倒して寝たきりになってしまっては、何のための医療かわからなくなってしまいます。

もちろん、反対側の問題も見過ごせません。地域には、治療の強化が必要なのに先送りされてしまう「クリニカル・イナーシャ(臨床的惰性)」が確かに存在します。ここは私たちが正面から改善すべき課題です。

ガイドラインの目標値は、あくまで「集団の平均」として目指すべき大切な指標です。しかし、目の前にいる患者さんの血管の硬さ、足腰の強さ、そして毎日の生活環境は一人ひとり違います。

「上の血圧が少し高くても、下の血圧が60mmHgを切っているから、あえてこれ以上は強い薬を使わないでおこう」
「最近お薬が変わったけれど、日常生活や入浴時などで立ちくらみはないかな?」

血圧計の単調な数字だけにとらわれず、そんな風に患者さんの「全体像」を診る、少しのゆとりと想像力を、地域のチーム皆で共有していけたらと思っています。

私たちが目指すのは、数字を整えることそのものではなく、患者さんの暮らしを守り、将来のイベントを減らすことです。地域のチームでこの視点を共有しながら、高血圧診療を一段前へ進めていければと思います。

#高血圧 #高血圧治療 #高齢者医療 #かかりつけ医 #地域医療

31/01/2026

ハラスメントの「自覚」が守るもの ― 社会的損失を防ぐために
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前回のブログでは、糖尿病の呼称を「ダイアベティス」に置き換える動きについて、スティグマ(病名や属性に貼られる「烙印」や「偏見」によって、本人が恥や恐れを抱き、周囲との関係で不利益を受けやすくなること)を軽くする配慮は重要である一方、現場では“警告としての力”まで弱まると患者さんの理解や治療継続に影響し得るため、言葉は心と身体の両方を守る「安全装置」として設計すべきだ、と書きました。

そして、スティグマが絡むと「言いづらい/受け止めづらい」沈黙が生まれ、対応が遅れるほど被害と損失が拡大する――これは領域が違っても共通するメカニズムだと考えています。
このメカニズムは職場のハラスメント対策にも当てはまり、沈黙と曖昧さを溜めないために、早期に線引きを明確にし、声を上げやすくする仕組みを、ワークライフバランス(WLB)の課題として整える必要があると思っています。

はじめに
私は2024年6月、青森県医師会の常任理事に就任いたしました。現在は、ワークライフバランス(WLB)推進室の末席に加わり、医師や医療従事者がいきいきと働き続けられる環境づくりに向き合っています。
WLBを考える上で、避けて通れないのが「ハラスメント対策」です。特に、表に出にくい「沈黙のハラスメント」にどう向き合うべきか。これは、医療界に限らず多くの職場が抱える課題です。
 ※本稿は特定の個人・組織を断罪する意図ではなく、組織としての予防と早期対応の考え方を述べるものです

「沈黙」の中に潜むリスクを直視する
最近、職場のハラスメントについて考える機会がありました。一般的に、パワーハラスメント(パワハラ)は業務の延長線上にあるため、まだ相談の形になりやすい傾向があります。しかし、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、個人の尊厳に深く関わるため、被害者が「職場にいられなくなる」ことを恐れて沈黙を選んでしまうことが少なくありません。
「相談がないから問題ない」と考えるのは、組織として大きなリスクを孕んでいます。表面化しないだけで、水面下では深刻な問題が進行している可能性があるからです。沈黙は、しばしば“平穏の証拠”ではありません。“声を上げられない構造”のサインであることがある。ここを見誤ると、取り返しがつかなくなります。

ハラスメントの明瞭化は「加害者のため」でもある
最近、自治体のトップに関するハラスメントが、第三者の調査報告書として公表され、辞職に至った事案がありました。最優先で守るべきは、被害を受けた方の尊厳と安全です。しかし、問題の核心は、個人を吊し上げることではなく、「沈黙が積み上がるほど、被害と損失が指数関数的に増える」という現実にあります。沈黙が続くほど、被害者の回復は困難となり、組織の信頼は失われます。結果として地域社会の損失になります。
だからこそ、ハラスメントを早期に明瞭化し、それを自覚させることは、被害者保護を最優先にしながら、被害拡大と社会的損失を止めるための安全装置なのです。
ここで、あえて少し踏み込んだ話をさせていただきます。ハラスメントを早期に明瞭化し、本人に自覚を促すことは、実は「加害者のため」にもなる――私はそう考えています。
※これは加害行為を軽く見る意図ではありません。放置することが、被害を拡大させ、最終的に誰もが失うことになるという問題意識です。

ハラスメントの加害者になる可能性は誰でもあり得ます。しかし組織のなかで指導的な立場やリーダー的な立ち位置にある人材に対しては、周囲が言いづらく、被害が積み上がりやすいことが問題です。
彼らが「軽い気持ち」や「境界を踏み越える冗談のつもり」、あるいは「昔は許された」という感覚のままに不適切な言動を続け、それが何年も経ってから大きな事件として表面化すれば、待っているのは社会的な破滅です。それまでのキャリアも功績も無に帰してしまいます。

私は、こうした結末を「本人の資質」だけで片づけるのは、組織として不適切だと思っています。線引きが曖昧なまま放置され、周囲が見て見ぬふりをし、沈黙が積み上がった結果として“最後に爆発する”。この構造を断ち切る責任は、個人よりもむしろ組織の側にあります。

「社会的利益の毀損」を防ぐために
有能で社会的な貢献度が高い人材が、自らの未熟な振る舞いを正す機会を失い、最終的に社会から排斥されてしまうこと。これは、医療界にとっても、ひいては地域社会にとっても計り知れない「社会的利益の毀損」です。

ただし、誤解のないように付け加えます。私が守りたい中心は“地位のある人”ではありません。守るべき最優先は、常に被害を受けた方の尊厳と安全です。

そのうえで、放置は被害を増やし、組織の信頼を腐食させ、最終的には地域医療の力を削ります。つまり、沈黙を放置すること自体が、社会に対する損失を生み続ける行為になってしまう。
早期にハラスメントを指摘し、本人の過ちを自覚させることは、被害の拡大を止めるためであり、同時に「取り返しのつかない破滅」を未然に防ぐ意味でも、組織にとっての安全装置になります。

結びに
相談者が不利益を被らない外部窓口の活用や、性別を問わず話しやすい体制づくりは、被害者を守るためであると同時に、加害者になり得る芽を早い段階で止める「組織の安全装置」です。言い換えるなら、沈黙を溜めないための排水路であり、線引きを曖昧にしないための規律です。
沈黙を生む職場は、善意だけでは変わりません。仕組みが必要です。そして仕組みの核心は、「本人が自覚できるうちに、明確に線を引く」ことにあります。
すべての医療従事者が尊厳を保ち、その才能を長く発揮し続けられる青森の医療現場を目指して、これからも常任理事の立場から、考え続けていきたいと思います

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「ダイアベティス」という響きは、高齢の患者さんを救えるのか―現場から提言する「名称の使い分け」―はじめに2026年1月も終わろうとしています。現在、医学界では「糖尿病」という呼称を「ダイアベティス」に変えようという議論が進み、先行して、患者...
30/01/2026

「ダイアベティス」という響きは、高齢の患者さんを救えるのか
―現場から提言する「名称の使い分け」―
はじめに
2026年1月も終わろうとしています。現在、医学界では「糖尿病」という呼称を「ダイアベティス」に変えようという議論が進み、先行して、患者さんにお渡しする連携手帳の表記が「JADEC(ジャデック)」へ改められるなどの変化もみられます。これらは、病名に伴うネガティブなイメージ(スティグマ)を軽減するための配慮とされています。
一方で私は、臨床現場では「世代や状況に応じた使い分け」が必要ではないかと感じています。先日、その“配慮”が、結果として治療継続を難しくしかねない――そんな高齢患者さんのケースを経験したからです。
「傷」と血糖値が、うまく結びつかなかった
患者さんは78歳の女性です。昨年10月、健診で空腹時血糖151mg/dL、HbA1c 6.6%を指摘され、当院外来で糖尿病と診断しました。診断時点では大きな合併症は目立たず、まずは内服薬を開始せずに、食事・運動療法の指導を行いました。自己管理の一助として「連携手帳」もお渡ししました。
その後、12月中旬に自転車で転倒し、左下腿に外傷を負われました。受傷から日が浅い時期ではありましたが、ご本人としては「思ったより治りが遅い」「心配だ」という感覚が強く、12月末に当院へご相談に来られました。
診察と検査では、随時血糖220mg/dL、HbA1c 7.0%まで悪化していました。高血糖は易感染性を招き、創傷治癒を遅らせる要因になります。そこで私は、「このタイミングでは、創の経過を良くするためにも血糖を下げる必要がある」と説明し、DPP-4阻害薬(テネリア20mg)を開始しました。
「赤い薬は飲みたくない」――理解のズレが見えた瞬間
年が明け、1月下旬の受診時。患者さんは「もらった薬を飲んだら下痢をしたので、2週間でやめた」とおっしゃいました。そして「前回出された薬は飲みたくない」と、治療に消極的な反応を示されました。
副作用のつらさは当然あります。ただ、私が気になったのは別の点でした。
私が伝えたかった「高血糖が傷の治りを悪くする」という危険度と、処方した薬の位置づけ(血糖を下げる治療が“足を守る治療”でもあること)が、患者さんの中で十分に結びついていない可能性があったのです。
実際に、「血糖が高いと足の傷が治りにくく、重症化すれば壊疽(えそ)につながり得る。だから血糖を下げる必要がある」と説明しても、危機感が共有しきれていない印象がありました。
言い換えると、「血糖を下げる薬」という雰囲気は理解されていても、「それが今の傷を良くするための治療につながっている」という発想にまでは至っていなかったように見えました。
なぜ、こうしたズレが起こり得るのか。
私は、その要因の一つに、連携手帳の表記が関係しているのではないかと考えました。
「JADEC連携手帳」は、高齢者には意図が伝わりにくい場合がある
患者さんが持っていたのは、改訂された第5版の連携手帳でした。以前の第4版は表紙に大きく「糖尿病連携手帳」と明記されていましたが、新しい手帳では「糖尿病」の漢字が消え、「JADEC 連携手帳」という表記・デザインになっていました。さらに、第5版の中では「糖尿病」という表記がほとんど見当たりません。
高齢の患者さんでは、「JADEC(ジャデック)」や「ダイアベティス」といった言葉だけでは、何の病気の管理手帳なのかが直感的に伝わりにくいことがあります。その結果、病名が持つ“警告としての力”が弱まり、「いま目の前の問題(傷)」と「血糖管理(糖尿病治療)」がつながっている、という理解がつくられにくくなる場面があるのではないか――今回の経験は、そうした可能性を示唆していました。
「過渡期の痛み」で片付けられない臨床リスク
名称変更に伴う混乱を「過渡期の痛み」と表現することがあります。しかし臨床現場では、認識のズレが治療の遅れに直結し、創傷悪化や壊疽、さらには切断や透析へとつながり得ます。ここで起きるのは、比喩ではなく現実の医療リスクです。
若い世代や現役世代が、社会的な不利益(スティグマ)を避ける目的で新しい呼称を用いることには、私は賛同します。一方で、70代、80代の患者さんにとって優先されるべきは、遠い将来の社会的評価よりも、「いまの生活機能を守り、合併症を避けること」です。
認知機能や理解力の低下が背景にある方も含め、あえて伝わりにくい言葉だけで運用することは、現場では慎重であるべきだと考えます。「糖尿病」という言葉が持つ“警告としての力”が、安全装置として働く場面が確かにあります。
提言:世代・状況による「使い分け」を
理想を追うあまり、現場の安全装置を外すべきではありません。私は対案として、世代や状況に応じた用語の使い分け(層別化)を提案します。
・若年・現役世代:スティグマ配慮として「ダイアベティス」「JADEC」を積極的に活用
・高齢者、認知機能低下が疑われる方、治療中断リスクが高い方:理解の確実性を優先し「糖尿病」を基本用語として維持
言葉を変えることで守られる心があることは理解します。しかし、それによって守れなくなる身体や命があっては本末転倒です。当院では引き続き、患者さんの理解度に合わせて、分かりやすい日本語で病気を認識していただくことを重視し、足を守り、生活を守る診療を続けていきたいと思います。
#ダイアベティス
#高齢者への使い分けの提言

住所

神田三丁目2/11
Hirosaki-shi, Aomori
036-8061

営業時間

月曜日 08:30 - 12:00
14:30 - 18:00
火曜日 08:30 - 12:00
水曜日 08:30 - 12:00
14:30 - 18:00
木曜日 08:30 - 12:00
金曜日 08:30 - 12:00
14:30 - 18:00
土曜日 08:30 - 12:00

電話番号

0172-33-6611

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