02/09/2026
〈まさゆめ〉 本日は、防災の日です。避難ルートを確認したり、備蓄食材の期限を確認するのもよい機会かもしれませんね。
予期せぬことに備える構えは大事です。では、予期せぬことに備えられない時、私達はどうしたらよいのでしょうか。
先日、私は、吉開菜央監督の最新映画を観てきました。彼女自身に起きたことを捉えたドキュメンタリー映画です。心身に不調を抱えた時、突然お母さんを亡くされました。ふとしたきっかけで彼女は禅寺を訪れます。そこで修行をしていく中で、食べること、動くこと、眠ること、シンプルな生活を送ることにより生きることを見つめ直していくお話です。
和尚さんのお話、禅寺で一緒に修行する方々のお話が大変印象的でした。「ここで起きる出来事はただの夢に過ぎない。良い夢もあれば悪い夢もある。楽しい出来事や辛い出来事もある。でもそれは、ただの夢、ただそこにあるだけ」と。人は、不安や分からないことにもやもやし、恐怖を感じます。だから、そこに意味を見出したり、物語を作ります。そうすることで安心を得ようとします。でも、実際はただあるだけ、起こっただけ、意味は、ない。それに気づくことが大事だとおっしゃっていました。客観視することで、自分を平常に保つことが出来るよ、と伝えたかったのだと思います。それを不動心と言うそうです。
突然亡くなった家族に対して、自分を責めてしまう、あの時あんなこと言わなきゃ良かった、ああすれば良かったとか。後悔してしまう。色んな感情がわき起こるでしょう。和尚さんは、吉開さんのわき起こる気持ちをただひたすら、静かに40分間耳を傾けて聴いてくれたそうです。その時間は、彼女にとってどれほどの力、救いになったことでしょう。「安心して苦しめる場所」禅寺に参加された方が表現していました。苦しい気持ちに対して責めなくてよい。苦しいは苦しいまま堂々と苦しいを過ごしてよい、と。
心理学で安全基地のことをセキュアベースと言います。
困ったり不安になったときに安心して戻れる心の拠り所になる場所や人のことを言うそうです。彼女にとって、この禅寺が安心して苦しめる場所、セキュアベースなんだと思います。
安心して苦しめる場所が、ここにも、あそこにも、コンビニみたいにもっともっと身近にあればいいのに、と強く思いました。そしたら、人は、色んな出来事に勇気を持ったり、自信を持って挑戦したり、自分を大切にして、それがめぐって、相手にも優しくなれるのかもしれません。
中盤で、吉開監督の幼少期のビデオが映し出されます。お誕生日を祝うなんとも微笑ましい動画でした。
「煙はさわれんよ」「いい顔せんね」
お母さんの声が、私が使っていた方言やなまりに似ていて、なんとも言えないぐっと込み上げてくるものがありました。たった数分の動画でしたが、そこには、彼女が元気に育ってくれてありがとう、嬉しい、大好きだよ、と言うあたたかい感情が洪水のように押し寄せてあふれんばかりの愛情に包まれました。
事象はただそこにあるだけ。意味もない。し、物語もない。価値もない。と和尚さんの言葉がよぎります。
しかしながら、たとえそうだったとしても、私には、そこに見えないものは残ると思っています。肌と肌の触れ合い、質感、その時に発する匂い、ぬくもり、大好き、大嫌い、嬉しい、辛い、そんな気持ちは、必ず自分の心に残ると思っています。私は、ただ、そこにあるだけ、も理解していこうと思います。でも、そこにある見えないものも同じくらいずっと大事にしたいと思います。私は、その映像から、お母さんの優しいまなざしをずっと感じました。
私の曽祖父は、僧侶でした。一度も会ったことはありません。しかし、祖母を通して、曽祖父に会っていたのだと、映画を観て気づきました。私が体調を崩した時、転んで膝をすりむいた時、祖母は必ず真言を唱えてくれました。真言を唱えて痛みを取り除いてくれました。40を過ぎた今でも昨日のことのように祖母との記憶は鮮明に残っています。あたたかいしわくちゃな手、触られたら、自分はなんにでもなれる、無敵だと感じてしまう、安心感。この感覚は、死ぬまで私の味方となり心に残るでしょう
「また会いましょう」
映画の終盤で、流れます。
色んな感情、葛藤を経て、自分の中で受け入れて消化して自分のものにして吐き出した監督の感情は、尊いと感じました。また会いましょうってよい言葉だなと。
ありのままを受け止めて、ありのままに過ごしていく。
予期せぬことに備えられなかった時、私はきっとすぐにこの映画を思い出すと思います。この映画は、いわゆるお笑いとかハッピーとか明らかにキラキラしたものではありませんが、心に滋養される温かみを感じます。何度も観たくなります。それは、きっと、出演されている方々、協力している方々が、監督のために心を一つにしているのが伝わってくるからです。そこにある出来事、上映されるだけ、ただの110分なだけ。なのですが、私は、終始お母さんのぬくもりを感じていました。この映画は、お母さんと一緒に作り上げていった映画なのかもしれません。また観に行こうと思います。
渋谷 ル・シネマ渋谷宮下で、上映中です。ぜひ、足を運んでいただいたら嬉しいです。
文と写真:濵園裕子
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