26/07/2026
暑い日の「なんとなく調子が悪い」は、脱水のサインかもしれません
夏の部活動やスポーツ、屋外作業では、大量の汗をかきます。
汗として出ていくのは、ただの「水」ではありません。水分と一緒にナトリウムなどの電解質も失われています。
しかも問題なのは、本人が「熱中症になった」と感じるより前から、身体の中では変化が始まっていることです。
体重の1~2%の水分を失うとは、どれくらい?
汗による体重減少は、失った水分量を知るための実用的な目安になります。
たとえば体重50kgの選手なら、
1%減少=約0.5kg=約500mL
2%減少=約1.0kg=約1L
3%減少=約1.5kg=約1.5L
です。
体重60kgなら2%で約1.2Lです。
「1Lくらいなら大したことない」と思うかもしれません。
しかし運動中、特に暑い環境では、この程度の水分不足でも身体は同じ運動を続けるために、より頑張らなくてはならなくなります。
汗で水分が減ると、血液を含む体液量が減少します。一方、暑い環境では身体の熱を逃がすため、皮膚にも多くの血液を送る必要があります。
つまり心臓は、
「運動している筋肉に血液を送りたい」
「皮膚にも血液を送って熱を逃がしたい」
という二つの仕事を同時に行うことになります。
そのため脱水が進むと、心拍数が上がり、体温調節の負担が増し、同じ運動でも「いつもよりきつい」と感じやすくなります。
特に暑い環境では、体重の2%を超えるような脱水は持久性パフォーマンスを低下させやすいことが報告されています。
脱水すると「体力」だけではなく「頭の働き」にも影響します
脱水の影響は、走る速さやスタミナだけではありません。
33研究、413人を対象にしたメタ解析では、1~6%の脱水状態を検討した結果、脱水によって認知機能が低下することが示されています。
特にスポーツでは、
集中する
相手を見る
周囲の状況を把握する
素早く判断する
注意を持続する
といった能力が重要です。
本人は「まだ動ける」と感じていても、
判断が少し遅い
集中が切れる
反応が遅れる
フォームが乱れる
ということが先に起きる可能性があります。
暑い日の練習後半に「普段ならしないミス」が増えてきたら、根性や集中力だけの問題と考えないことが大切です。
筋肉の能力も低下します
脱水と筋パフォーマンスを調べた研究をまとめたメタ解析では、脱水状態によって平均して、
筋持久力:約8%低下
筋力:約5%低下
無酸素性パワー:約6%低下
という結果が報告されています。
もちろん、すべての人が必ずこの割合で低下するという意味ではありません。
しかし、
「いつもより踏ん張れない」
「ダッシュの最後で力が出ない」
「フォームを維持できない」
という状態が、単なる疲労だけでなく水分不足によって起こる可能性があります。
スポーツでは、疲れてからの一歩、着地、切り返し、接触時の身体のコントロールが重要です。
したがって脱水は「熱中症だけを防げばよい」という問題ではなく、良い状態で練習し、ケガにつながる条件を減らすためのコンディショニングの問題として考える必要があります。
ただし、脱水によってスポーツ外傷そのものが何%増える、と断定できる十分なデータがあるわけではありません。
脱水によって筋力・筋持久力・認知機能などが低下することは示されていますが、そこから「脱水=ケガが○倍」と直接結びつけないことも大切です。
汗では「塩分」も失っています
汗をなめると、しょっぱいですよね。
これは汗の中にナトリウムなどの電解質が含まれているからです。
506人のアスリート(成人367人、若年者139人)を調べた研究では、全身の発汗量は平均約1.2L/時、推定された汗のナトリウム濃度は平均約36mmol/Lでした。
ただし個人差は非常に大きく、発汗量は約0.26~5.73L/時、推定全身汗ナトリウム濃度は約18~71mmol/Lの範囲でした。
つまり、
「同じ練習をしているから、全員同じ量を飲めばいい」
とは限りません。
汗の量も、汗に含まれる塩分量も、人によってかなり違うのです。
たとえば汗1Lにナトリウムが40mmol含まれていた場合、失われるナトリウムは約920mgです。
食塩に換算すると約2.3gに相当します。
汗を大量にかく選手では、数時間の練習でかなりの水分と電解質を失う可能性があります。
ただし、だからといって全員が失った塩分を1mg単位ですべて補給する必要がある、という意味ではありません。発汗量、練習時間、食事、暑さ、個人の汗の塩分濃度などによって必要量は異なります。
水だけを大量に飲めばいいわけでもありません
暑い日の長時間の運動で大量に汗をかいている場合、水分だけでなく塩分も失っています。
一方で、水を必要以上に大量に飲むことにも問題があります。
運動中に汗や尿として失う量を大きく超えて水分を摂取すると、血液中のナトリウム濃度が低下する「運動関連低ナトリウム血症」を起こすことがあります。
つまり、
「脱水しないように、とにかく大量に飲めばいい」
でもありません。
大切なのは、汗で失った量を考えながら適切に補給することです。
自分がどれくらい汗をかいているか調べてみよう
特別な検査をしなくても、
練習前の体重 − 練習後の体重
を測るだけで、脱水の程度をある程度知ることができます。
たとえば練習前50.0kg、練習後49.2kgなら、0.8kg減っています。
体重の約1.6%です。
途中で500mL飲んでいたなら、尿などを無視した簡易計算では、
0.8L+0.5L=約1.3L
程度の水分を失ったと推定できます。
これを何回か測ると、
「自分は真夏の2時間練習でどれくらい汗をかくのか」
が分かってきます。
日本スポーツ協会も、運動による体重減少が2%を超えないように水分補給することを目安としています。
夏の部活動では「のどが渇いてから」だけに頼らない
特に暑い環境で長時間運動するときは、練習開始時点ですでに水分不足になっていないことが大切です。
そして練習中も、給水できる時間を最初から決めておきましょう。
環境省の運動指針では、WBGT(暑さ指数)が28以上31未満では「激しい運動は中止」とされ、10~20分おきに休憩し、水分・塩分を補給することが推奨されています。
WBGT31以上では「運動は原則中止」、特に子どもについては中止すべきとされています。
「昔は水を飲まなかった」
「このくらい我慢できる」
ではなく、
暑さに合わせて練習そのものを変える
ことが、現代のスポーツ医学では重要です。
水分補給は「弱い選手が休むためのもの」ではありません。
最後まで良い動きを続けるためのトレーニングの一部です。
暑い日の練習では、
「倒れなかったから大丈夫」
ではなく、
「最後まで安全に、正確に、良いパフォーマンスを維持できたか」
をコンディショニングの基準にしてみてください。